私たちがこの3年間にわたって育てて来た心やさしき作品があります。
長編劇映画「じんじん」、数ある日本映画のなかでこんなにも幸せな映画はなかったのかも知れません。
そんな「じんじん」についていくつかのエピソードを語ってみたいと思います。
この作品は今から7年前、俳優の大地康雄さんが北海道剣淵町を訪れたことから全てが始まりました。
大地康雄さん、お名前は知らずともほとんどの方々がそのお顔は知っているのでは…今の時代では得がたい個性的な素晴らしい役者さんですが、大地さんは一人の人間としてとても熱い心を持った方でした。
以前から大地さんは現代社会のありように大きな危惧の念をお持ちでした。地域社会の崩壊が語られ、いまや地域社会の基礎単位であるべき家族さえゆらぎ始め、それに起因する悲しい事件が毎日のように報じられるようになってしまった現代社会…。これでは日本がダメになってしまう…そんな危機感を大地さんは感じていたのでした。
そんな大地さんが訪れることになったのが北海道剣淵町でした。
剣淵町…、おそらくほとんどの方々がご存知ない町だとは思いますが、旭川市の北50km程に位置し、人口は3500名…とても、とても小さな農業の町です。
今から27年前、竹下内閣の時に「ふるさと創生一億円事業」が発表された折、剣淵町の若者たちは一つの提案を持って町長さんに面会を申し込みました。
“天から降ってわいたようなこのお金で、ハコモノをつくったり温泉を掘ったりではなく、わが町では「絵本のこころ」をテーマに、人と人の心が通い合う、そんな町をつくってみよう…“
こんな提案をしたのでした。
これを巡っては町内にいくつかの異論もありましたが、最終的に町長さんはその提案を受け入れて「絵本の里づくり事業」をスタートさせたのでした。そしてそれから27年、剣淵町の町民は「絵本のこころ」を大切に育み、見事に生活の中に定着させた素晴らしい町をつくりあげていたのでした。
10年程前に完成した絵本に特化した図書館「絵本の館」を中心に展開される町民と絵本との触れ合い、そして町民の手による絵本の読み聞かせ...。この姿に触れた大地さんは体が震えるほどの感動を覚えた...とおっしゃいました。
絵本を通して通い合う人と人との心、絵本に聞き入る子供たちの目の輝き...。今の日本に欠けていて、そして一番なければならない「人のこころ」がここにある...。
そう思った大地さんはこの剣淵町をテーマに映画を作り上げ全国にお届けしたい...、そんな決意を胸の中に刻んだのでした。
そして完成した作品は、人の手から手に、そして口から口へと語りつがれ、その上映の輪を拡げ、「地域社会と家族の再生」を願う声は全国500箇所20万観客を数えるまでにこの作品を育てあげたのでした。