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 今、全国に上映の輪を大きく拡げている「荒野に希望の灯をともす」は、中村哲さんの足跡を描いた作品でした。
 この作品の上映が、かつてなかった程の巾の広い方々に支持されて多様な上映が展開されている背景には、中村哲さんが貫き通した“人と人とが支え合う心”への共感があったからだと思えるのです。
 そして、そんな中村哲さんの心の原点を見つめた時、見えて来たのが熱く人の道を説く彼を取り巻く人々の姿でした。
 中村哲さんの母方の祖父は玉井金五郎さん・・・明治の時代を北九州若松港で生きた人でした。
 当時の若松港は日本最大の石炭の積み出し港でした。
 当時この作業はまだ機械化されず、全て人力によって石炭は船に積み込まれ、この作業にあたる沢山の港湾労働者が居ました。
 彼らは当時、“ゴンゾウ”とさげすまれ、最低の労働条件の下で必死にその命をつないでいました。
 玉井金五郎は、こんな“ゴンゾウ”を取りまとめる玉井組の組長でした。
 金五郎はこんな底辺におかれた労働者の生活改善を願って、彼らのための「組合」の結成を決意しました。
 しかしながらこれに反対する側は、暴力も発動して金五郎の前に立ちふさがりました。
 生死の境もくぐり抜けながら、金五郎は“ゴンゾウ”の命と生活を守ったのでした。
 金五郎の妻、中村哲さんにとって祖母は、玉井マンさんという熱い心の女性でした。
 マンさんはよく孫たちを集めては、大好きなタバコを長いキセルで吸いながらこんな教えを語ったのでした。
 “身を捨てて皆のために尽くせ。弱い者をかばわんと世の中は成り立たん。”と・・・。
 そんな孫の中に幼い中村哲さんも居たのでした。
 そんな熱い祖父祖母の姿は、金五郎・マンさんの長男勝則(ペンネーム火野葦平)によって小説「花と龍」となって多くの方々の心も熱くさせました。
 北九州の熱い風を体いっぱいに受けながら、“人と人とが支え合う心”は、いつの間にか中村哲さんの胸に定着していったのだと思います。
 新自由主義にもとづく政治は、社会の中に大きな貧困と格差の拡大を生みました。
 そして、そんな政治からこぼれた人々を<自己責任>と称して切り捨てる主張がまかり通っています。
 それでも、“人と人とが支え合う心”を願う方々は、今大きな流れとなって、「荒野に希望の灯をともす」を全国に拡げようとしているのかも知れません。
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# by cinema-tohoku | 2023-10-11 14:41 | その他 | Comments(0)
 コロナが一段落したと思ったら、一気に仕事が動き出した様で、忙しい全国行脚の日が戻って来ました。
 中村哲さんの支援活動を描いた「荒野に希望の灯をともす」は、更にその上映の輪を大きく拡げていました。
 宮城県石巻市上映には1400名ののぼる方々にご参加いただき、12年前の被災地の市民の胸に熱く「命」を語る上映会となりました。
 福島県のトップを切った喜多方市の上映には、酷暑の中700名もの方々が足を運んで下さいました。
 東京では多彩な上映が各区市で展開され、都内での上映は既に12ヶ所にのぼりました。
 小さな喫茶店での2種間にわたった上映から、大きなホールを満席にした上映まで、多様な上映会の足跡は、中村さんの心にふさわしい上映展開なのかも知れません。
 そしてそんな折、新たな配給作品が決まりました。
 「オレンジ・ランプ」、認知症をテーマに、認知症の方々が変らずに地域の中で社会生活を営むことが出来る<共生社会>の素晴らしい可能性を描いた作品でした。
 これまで、いくつかの社会的なテーマを映画としてつくり上げ、その上映にあたっても、映画館のみによらない多様な上映を展開してきたYさんが、この作品を携えて私のもとを訪ねていらっしゃいました。
 作品を拝見して大きな感動を覚えました。
 これまで認知症は、絶望の象徴として語られてきたと思えるのです。
 認知症にかかればその先に完治の道はなく、家族の崩壊さえ予測されるものでもありました。
 しかしながらこの作品に描かれた認知症は、認知症をあきらめなくても良い・・・認知症の先に一筋の光さえ見える・・・そんな素晴らしい可能性を語ってくれたのでした。
 配給をお引き受けして、先ずはこの作品に最も近い組織として<認知症の人と家族の会>の各県支部にご面会して、上映への道を探ろうと動き始めました。
 一昨日仙台を発って滋賀、京都、昨日は奈良、大阪を回り、高知まで足を運んで来ました。
 3年におよんだコロナの時代・・・動きたくても全く仕事が無く、心さえふさぎ込んでいたあの時がまるで夢だったように、目の回る様な仕事の日が戻って来ました。
 でも、この間確実に年は3才重ねて・・・それでも社会に目をやるなら、その困難さに目がくらみそうにもさせられています。
 今は・・・授かった仕事に精一杯の努力を傾けたいものです。
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石巻上映には多くの方々が

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大阪から高知への空

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オレンジ・ランプ


# by cinema-tohoku | 2023-09-11 14:24 | 映画 | Comments(0)
 協同組合ジャパン・スローシネマ・ネットワーク(JSN)、映画の製作と全国上映を通して、より良い地域社会をつくり上げることを目的に私たちが立ち上げた組織が10歳を迎えました。
 10年前、組織の発足にあたって、その設立総会の会場に定めたのは仙台でした。
 東日本大震災の爪跡がいまだに残る仙台でその第一歩を踏み出すことで、私たちの進むべき道に「命の尊さ」を刻むことを願っての会場設定でした。
 そしてあれから10年の時が流れていました。
 この10年は数々の喜びと、そしていくつかの困難に彩られた道でした。
 心ならずも罪を犯した人たちが地域社会の中で立ち直ることを願う<更生保護のこころ>を描く映画「君の笑顔に会いたくて」は、原作者の故郷宮城県の心ある企業経営者のご賛同が拡がり2017年完成の日を迎えました。
 そしてそれに続く製作作品として私たちが製作にあたったのは「あの日のオルガン」でした。
 あの戦火の時代に、東京にあった保育園を埼玉の荒れ寺に疎開させて53人の幼い命を守った若き保母たちの史実を描き、今の時代に“子どもの命と平和”への願いを語ろうとしたこの作品は、製作にご賛同の手を重ねて下さった77名にのぼる「市民プロデューサー」の方々に支えられて2018年完成を迎えました。
 私たちJSNの手によって生を受けたこの2本の映画は、より良き地域社会と子どもの健やかな未来を願う全国多くの方々の手によってその上映は全国に拡がり、その一ヶ所一ヶ所に感動のドラマも刻んで来ました。
 しかしながら2020年2月、突然日本を襲ったコロナ禍がこの2本の作品の全国上映の前に大きな障害として立ちはだかったのでした。
 決っていた上映は全てが中止に追い込まれそれから3年、私たちは大きな困難に突き落とされることになったのでした。
 JSN加盟の10社は、収入の道を絶たれ、政府が発表する支援策にすがりながら無為に日を重ねて来ました。
 収入が途絶えたことだけでなく、仕事がないことがいかにつらいことか・・・、このことは私たちの心に大きな影となって投げかけられました。
 そんな3年間でしたが、よくも各社、心も折れずにこの間の時を重ねて、私たちは4年ぶりに対面での第10回定期総会の日を迎えることが出来たのでした。
 2日にわたった総会には、今全国公開中の「荒野」のプロデューサーと監督が、そしてこれから配給にあたる「オレンジ・ランプ」のプロデューサーとモデルの丹野さんにご参加いただき、未来に向けた展望は懇親会にも引き継がれ夜の更けるまで語り合いは続けられたのでした。
 現代の社会状況に目をやれば、横たわるのは困難を極めた問題点のみ・・・。
 さあ、立ち上がって、未来に輝く光を求めて歩みを起こしましょう・・・。
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 現代社会に目をやるなら、思わずため息が出る思いにさせられていました。
 そんな時、未来に向けた一筋の光の様な素晴らしい上映会に巡り合いました。
 中村哲さんの足跡を描いた「荒野に希望の灯をともす」の上映会を実現して、混迷する現代社会に一石を投じるべく仙台に上映実行委員会が発足したのは、まだ寒さの残る2月のことでした。
 県立高校の退職教師Dさんの熱い呼びかけに応えてこの上映運動に参加して下さったのは、上映に賛同した多彩な20名の有志の方々でした。
 その日から、この作品が語る<未来への希望>は一歩一歩、牛の歩みの如き速度ではありましたが、確実にその道を拓きながら仙台市民の胸に伝わっていったのでした。
 そして迎えた上映には、1400名にのぼる市民の方々が足を運んで下さり、シネマとうほくにとってはコロナ禍以降では初の1000名超えの上映会となったのでした。
 トータルで11回にのぼった上映の冒頭では、それぞれの回毎に実行委員が交替で心を込めたご挨拶・・・、回によってはお客様が入り切れず次回に回ってもらうための頭を下げながらの必死のご案内・・・、まさに手づくりの上映運動は、おいでいただいた方々の胸にもさわやかな感動となって伝わった様でした。
 観客席に目をやるなら、この種の上映会ではなかなかお顔を見せることのなかった若者たちや、子ども連れの家族の姿も目立ち、上映終了後会場に響いた満場の拍手と、感動に頬を染めながら会場を後にする方々の熱いお声の数々に、実行委員一同“やって良かった!”、そんな思いを胸に深く刻んだ上映会となりました。
 “政治はあなたを見捨てます”と翻訳するべき<自己責任論>がまことしやかに語られ、貧困と格差の拡大は更に大きな傷となって社会に横たわっています。
 沢山の 貴い犠牲の上に決められた筈の「脱原発」はあっさりと捨てられ、「敵基地攻撃」のための大軍拡…。
 そのあまりの絶望的な状況に心が塞ぐ思いでしたが、この仙台での上映会は私の胸に未来に向けて希望の灯をともしてくれたのかも知れません。
 まだ、あきらめるには早すぎると・・・。
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満席の上映会


# by cinema-tohoku | 2023-06-22 10:00 | 映画 | Comments(0)
 5月3日は75回目の憲法記念日、思い立って「むのたけじ」の本を手にとりました。
 むのたけじは、1915年秋田県に生まれました。
東京外大卒業後、朝日新聞に入社して、従軍記者として戦争報道にあたりまし
たが、戦後、戦争への責任を痛感して退社。ふるさとの横手市に帰り、新聞「たいまつ」を創刊、農村、農民運動のあしあとや地方文化等の記事を書き続け、一貫して平和を訴え続けたジャーナリストでした。
 久しぶりに触れたむのたけじの言葉は、やさしく、それでも時代への鋭い批評となって私の胸に伝わって来たのでした。
 今、私たちの日本社会は、ある方向に向けて大きくその舵を切り始めたように思えるのです。
 一貫して続けられて来た<新自由主義>の政治は、社会の中に格差と貧困の拡大をもたらしました。
 <自己責任論>が語られ、社会に人が孤立すること故の自殺者の急増に胸が痛みます。
 「国境なき記者団」が発表した「報道の自由度ランキング」で日本は、180ヶ国中71位。
 日本が自由にモノを言うことが難しくなっていることが語られています。
 そして、先日行われた統一地方選挙の投票率は、いずれも過去最低の数字を示しました。
 朝日新聞が調査した日本の政治をどれほど信頼しているかの問いに、「信じていない」は55%にのぼり、政治に対する不信感はその頂点に向って登りつめ様としているのです。
 時代の閉塞感が刻々と深まり、行き場のない政治への不信感がテロにさえつながり始めた現代社会…。
 現内閣は「防衛力」の抜本的な強化を語り、本年度予算からその金額を上積みし、今後5年間でその額を倍増させる道を歩き始め、世界の中に明らかにこれまでとは異なった姿として、日本の未来を主張し始めています。
 そんな中で迎えた「憲法記念日」に開いた本にむのたけじの言葉が目にとまりました。
 “水と空気と平和がなければ、人間は生きていけない。水と空気は、われわれの生まれない先からあった。平和―それは、われわれが絶えずつくっていかねばならない。”
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春の野を彩るショウジョウバカマ


# by cinema-tohoku | 2023-05-03 00:00 | その他 | Comments(0)