人気ブログランキング | 話題のタグを見る
 協同組合ジャパン・スローシネマ・ネットワーク(JSN)、映画の製作と全国上映を通して、より良い地域社会をつくり上げることを目的に私たちが立ち上げた組織が10歳を迎えました。
 10年前、組織の発足にあたって、その設立総会の会場に定めたのは仙台でした。
 東日本大震災の爪跡がいまだに残る仙台でその第一歩を踏み出すことで、私たちの進むべき道に「命の尊さ」を刻むことを願っての会場設定でした。
 そしてあれから10年の時が流れていました。
 この10年は数々の喜びと、そしていくつかの困難に彩られた道でした。
 心ならずも罪を犯した人たちが地域社会の中で立ち直ることを願う<更生保護のこころ>を描く映画「君の笑顔に会いたくて」は、原作者の故郷宮城県の心ある企業経営者のご賛同が拡がり2017年完成の日を迎えました。
 そしてそれに続く製作作品として私たちが製作にあたったのは「あの日のオルガン」でした。
 あの戦火の時代に、東京にあった保育園を埼玉の荒れ寺に疎開させて53人の幼い命を守った若き保母たちの史実を描き、今の時代に“子どもの命と平和”への願いを語ろうとしたこの作品は、製作にご賛同の手を重ねて下さった77名にのぼる「市民プロデューサー」の方々に支えられて2018年完成を迎えました。
 私たちJSNの手によって生を受けたこの2本の映画は、より良き地域社会と子どもの健やかな未来を願う全国多くの方々の手によってその上映は全国に拡がり、その一ヶ所一ヶ所に感動のドラマも刻んで来ました。
 しかしながら2020年2月、突然日本を襲ったコロナ禍がこの2本の作品の全国上映の前に大きな障害として立ちはだかったのでした。
 決っていた上映は全てが中止に追い込まれそれから3年、私たちは大きな困難に突き落とされることになったのでした。
 JSN加盟の10社は、収入の道を絶たれ、政府が発表する支援策にすがりながら無為に日を重ねて来ました。
 収入が途絶えたことだけでなく、仕事がないことがいかにつらいことか・・・、このことは私たちの心に大きな影となって投げかけられました。
 そんな3年間でしたが、よくも各社、心も折れずにこの間の時を重ねて、私たちは4年ぶりに対面での第10回定期総会の日を迎えることが出来たのでした。
 2日にわたった総会には、今全国公開中の「荒野」のプロデューサーと監督が、そしてこれから配給にあたる「オレンジ・ランプ」のプロデューサーとモデルの丹野さんにご参加いただき、未来に向けた展望は懇親会にも引き継がれ夜の更けるまで語り合いは続けられたのでした。
 現代の社会状況に目をやれば、横たわるのは困難を極めた問題点のみ・・・。
 さあ、立ち上がって、未来に輝く光を求めて歩みを起こしましょう・・・。
      JSN第10回総会_a0335202_14093404.jpg


 現代社会に目をやるなら、思わずため息が出る思いにさせられていました。
 そんな時、未来に向けた一筋の光の様な素晴らしい上映会に巡り合いました。
 中村哲さんの足跡を描いた「荒野に希望の灯をともす」の上映会を実現して、混迷する現代社会に一石を投じるべく仙台に上映実行委員会が発足したのは、まだ寒さの残る2月のことでした。
 県立高校の退職教師Dさんの熱い呼びかけに応えてこの上映運動に参加して下さったのは、上映に賛同した多彩な20名の有志の方々でした。
 その日から、この作品が語る<未来への希望>は一歩一歩、牛の歩みの如き速度ではありましたが、確実にその道を拓きながら仙台市民の胸に伝わっていったのでした。
 そして迎えた上映には、1400名にのぼる市民の方々が足を運んで下さり、シネマとうほくにとってはコロナ禍以降では初の1000名超えの上映会となったのでした。
 トータルで11回にのぼった上映の冒頭では、それぞれの回毎に実行委員が交替で心を込めたご挨拶・・・、回によってはお客様が入り切れず次回に回ってもらうための頭を下げながらの必死のご案内・・・、まさに手づくりの上映運動は、おいでいただいた方々の胸にもさわやかな感動となって伝わった様でした。
 観客席に目をやるなら、この種の上映会ではなかなかお顔を見せることのなかった若者たちや、子ども連れの家族の姿も目立ち、上映終了後会場に響いた満場の拍手と、感動に頬を染めながら会場を後にする方々の熱いお声の数々に、実行委員一同“やって良かった!”、そんな思いを胸に深く刻んだ上映会となりました。
 “政治はあなたを見捨てます”と翻訳するべき<自己責任論>がまことしやかに語られ、貧困と格差の拡大は更に大きな傷となって社会に横たわっています。
 沢山の 貴い犠牲の上に決められた筈の「脱原発」はあっさりと捨てられ、「敵基地攻撃」のための大軍拡…。
 そのあまりの絶望的な状況に心が塞ぐ思いでしたが、この仙台での上映会は私の胸に未来に向けて希望の灯をともしてくれたのかも知れません。
 まだ、あきらめるには早すぎると・・・。
     荒野に希望の灯がともりました_a0335202_09385689.jpg
満席の上映会


# by cinema-tohoku | 2023-06-22 10:00 | 映画 | Comments(0)
 5月3日は75回目の憲法記念日、思い立って「むのたけじ」の本を手にとりました。
 むのたけじは、1915年秋田県に生まれました。
東京外大卒業後、朝日新聞に入社して、従軍記者として戦争報道にあたりまし
たが、戦後、戦争への責任を痛感して退社。ふるさとの横手市に帰り、新聞「たいまつ」を創刊、農村、農民運動のあしあとや地方文化等の記事を書き続け、一貫して平和を訴え続けたジャーナリストでした。
 久しぶりに触れたむのたけじの言葉は、やさしく、それでも時代への鋭い批評となって私の胸に伝わって来たのでした。
 今、私たちの日本社会は、ある方向に向けて大きくその舵を切り始めたように思えるのです。
 一貫して続けられて来た<新自由主義>の政治は、社会の中に格差と貧困の拡大をもたらしました。
 <自己責任論>が語られ、社会に人が孤立すること故の自殺者の急増に胸が痛みます。
 「国境なき記者団」が発表した「報道の自由度ランキング」で日本は、180ヶ国中71位。
 日本が自由にモノを言うことが難しくなっていることが語られています。
 そして、先日行われた統一地方選挙の投票率は、いずれも過去最低の数字を示しました。
 朝日新聞が調査した日本の政治をどれほど信頼しているかの問いに、「信じていない」は55%にのぼり、政治に対する不信感はその頂点に向って登りつめ様としているのです。
 時代の閉塞感が刻々と深まり、行き場のない政治への不信感がテロにさえつながり始めた現代社会…。
 現内閣は「防衛力」の抜本的な強化を語り、本年度予算からその金額を上積みし、今後5年間でその額を倍増させる道を歩き始め、世界の中に明らかにこれまでとは異なった姿として、日本の未来を主張し始めています。
 そんな中で迎えた「憲法記念日」に開いた本にむのたけじの言葉が目にとまりました。
 “水と空気と平和がなければ、人間は生きていけない。水と空気は、われわれの生まれない先からあった。平和―それは、われわれが絶えずつくっていかねばならない。”
       憲法記念日_a0335202_09512221.jpg
春の野を彩るショウジョウバカマ


# by cinema-tohoku | 2023-05-03 00:00 | その他 | Comments(0)
 12年目の3.11の日を出張先の東京で迎えました。
 冷たい北風が吹いていたあの時とは打って変わって、春らんまんを思わせるやわらかな陽ざしが降り注いでいます。
 被災地では、いまだに3万人の人々が避難生活を強いられているのですが、12年の時の流れは人々の記憶からあの大惨禍を消し去ってしまうには十分なものであることを街を行き交う人たちの笑顔に感じながら、今日の午前の目的地逗子へ・・・。
 カバンの中に携えた作品は「荒野に希望の灯をともす」、アフガニスタンで献身的な支援活動を続けて来た中村哲さんの足跡を描いた記録映画です。
 この作品の配給が決まってから3ヶ月が経ちましたが、寄せられる反響の大きさに驚かされていました。
 毎日、まさに毎日なのですが、全国から上映をのぞむお声が数件、時には十数件寄せられて来ているのです。
 映画の仕事に携わってから50数年、こんな反響の作品に巡り合ったのは初めてのこと。
 中村哲さんがその生涯をかけて刻んで来た足跡が、時代の閉塞感さえ感じられている現代社会に、人の幸せへの道を照らす灯となって輝いている証しなのだと思っていました。
 逗子の喫茶店で上映の打合せを終えて逗子駅へ・・・そこで目に入ったのは、駅前で東日本大震災からの復興を願う献花を呼び掛ける市民団体のテントでした。
 12年経っても、皆忘れてしまった訳ではなかった・・・。
 そんな思いに胸を熱くして、午後の目的地町田へ。
 ここでは「荒野に希望の灯をともす」の上映に立ち上がった、上映の経験も組織もない一人の29歳の女性の願いに賛同が拡がり、第一回目の上映実行委員会が開かれていました。
 会議が始まり、時計が14時46分の“あの時”を刻んだ時、会議にご参加の方々は、誰言うともなくこうべを垂れた黙とうであの時をしのんで下さったのでした。
 そしてこの日の夜に行われた練馬での「あの日のオルガン」の実行委員会発足に向けた試写会で忙しく走り回った記念の一日を終えたのでした。
 3年のコロナ禍ですっかりナマッテしまった老体に鞭打ちながら、それでも思いがけずに触れた”人の情„に心を熱くした一日でした。
 啓蟄も過ぎた今、長かったトンネルから私も這い出さなければ・・・。
        12年目の3.11_a0335202_16544107.jpg
逗子駅前には、献花を訴えるテントが


# by cinema-tohoku | 2023-03-14 16:59 | 映画 | Comments(0)
 新年明けましておめでとうございます。
 困難な時代ではありますが、新しい年を迎えられ、皆様未来に向けた夢を描いておいでのことと思います。
 私たちはこの3年間のコロナ禍で、年の始まりにあたって展望も語ることの出来ない厳しい時代を過ごして参りました。
 しかしながら、やっと未来に向けた光を感じるお正月を迎えました。
 昨年のブログでも触れましたが、「荒野に希望の灯をともす」の配給について、製作の日本電波ニュース社とのご相談が進み、本年から劇場上映を除いた分野での配給を、私たちが中心になって組織した協同組合ジャパン・スローシネマ・ネットワークで担当することになりました。
 早速、この作品を私たちの周りの方々にお伝えしてみました。
 素晴らしい反響が返って来ました。
 中村哲さんがその生涯をかけて語った人と人とが支えあう心、そして平和を願う思いは、それぞれの拠って立つお立場をこえて、広汎な方々の願いとなって脈々と息づいていたのだと思います。
 是非上映を!・・・そんなお声は、かつてなかった程の勢いで全国にその輪を拡げ始めたのでした。
 自己責任論が語られ、社会の弱い立場の人々を踏みつけにすることが、あたかも社会の公正なルールとして語られる現代社会に暗澹たる思いでいましたが、中村哲さんに寄せる人々の願いは、熱く私の胸に伝わって来たのでした。
 まさに“荒野”の様になってしまった現代社会に”希望の希望の灯をともす〟ために・・・。
 新年早々、大きな課題と向かい合った思いでした。
 そして今年のもう一つの大きな課題は、やはり「あの日のオルガン」です。
 ロシアによる不当なウクライナ侵略からまもなく一年を数えることになります。
 この間、この悲惨な戦争は、ウクライナ・ロシア両国から20万人にも上る膨大な犠牲者を生むことになりました。
 この世界情勢に乗じて日本の軍事費を一気に拡大させ、日本を軍事大国化させようとする意見も堂々と語られ始めています。
 昨年惜しまれながら他界した瀬戸内寂聴さんは、生前戦争について語っていました。
 “戦争にいい戦争などない。戦争は全て殺し殺されることだ。”と。
 人が生きる最前提としての平和への心を多くの方々の胸にお届けするため・・・。
 「あの日のオルガン」の上映再開は、私たちにとってこれも今年の大きな課題となっています。
 やっと仕事が出来る喜びも感じながら・・・。
 新年にあたっての夢を、やっと描き始めたお正月でした。

明けましておめでとうございます_a0335202_16541746.jpg
©日本電波ニュース社

明けましておめでとうございます_a0335202_16544109.jpg
©2018「あの日のオルガン」製作委員会

# by cinema-tohoku | 2023-01-06 16:04 | 映画 | Comments(0)