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      記録映画「或る保姆の記録」

 「あの日のオルガン」の製作企画を始めていた頃、是非観たい、と願っていた記録映画がありました。
 「或る保姆の記録」、発足間もない戸越保育所での子どもたちの生活を描いた作品です。
 戸越保育所が幼い子どもたちの命を育んでいたのは、東京都品川区でした。
 この地区は、大井町駅を中心とした、小さな工場が林立する労働者の街でもありました。
 戸越保育所の創設者となった大村栄之助・鈴子さんご夫妻は、労働者に心寄せるお二人でもあって、労働者の子どもを育てる場を・・・、そんな夢が実現して発足した戸越保育所でした。
 「或る保姆の記録」は、大村栄之助さんがその後、芸術映画社を立ち上げ、自らプロデュースして、戸越保育所での子どもたちの生活を見事に描いた作品でした。
 幸いこの作品が、私が以前勤務していた共同映画の倉庫にあることが分かり、共同映画のご好意で作品を拝見しました。
 作品は、大井町駅からはき出され、それぞれの職場に向かう、当時の労働者の姿が、生き生きと映し出される朝のシーンから始まります。
 そして、その後に展開される戸越保育所の生活には、戦争の影は全くなく、保母が父母と連携をとりながら、子どもたちと向かい合う姿が生き生きと描かれて行くのです。
 この作品の製作年は1942年・・・。
 この前年が日米開戦でしたから、日本中が戦争に狂奔していたあの時代に、よくぞここまでの製作を貫き通せたものだと・・・。
 製作者たちの平和への願いと、子どもたちへの深い愛情がにじみ出る作品でした。
 子どもたちの健やかな、そして平和な未来を願う戸越保育所の子育て理念が、1942年一本の優れた記録映画となり、そしてそれから77年を経て、今又、一本の劇映画として結晶した・・・。
 この保育所の創設者の思いも深く胸に刻みながら、「オルガン」の全国への旅を続ける私であります。
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或る保姆の記録


by cinema-tohoku | 2019-08-27 10:27 | 映画 | Comments(0)