映画「母」

「母」…こんな題名の作品が今月クランクイン、12月の完成をめざして制作をスタートさせることとなりました。
製作を手掛るのは現代ぷろだくしょん、日本の独立プロ製作会社としては大いなる「老舗」、その設立は1951年にさかのぼります。
現代ぷろは、主に「社会派」と呼ばれる作品を数多く手がけ、1956年に公開された八海事件をテーマにとった「真昼の暗黒」は当時のキネ旬ベスト1にも輝くこととなりました。
私が現代ぷろを知ったのは大学時代でした。
思いを同じくする仲間たちと地域で映画サークルを立ち上げ、映画を通して社会と向かい合うべく活動を続けていた折、巡り合ったのがこの「真昼の暗黒」でした。
日本の司法当局が、そして警察権力が、不当にも無実の者に罪をかぶせようとする「冤罪」の実相に慄然とさせられながらも、底流に横たわる「真実」をテンポよく、しかも分かりやすく面白く一本のドラマに仕立てた今井正監督の力量にも感銘したことを記憶しています。
そして、その次に現代ぷろと巡り合ったのは、私が映画の道に進んでまだ間もない頃、現代ぷろが製作した「はだしのゲン」を通してのことでした。
一見誇張した演出はマンガの様にも思われたものでしたが、この作品は当時の親と子の平和に向けた心をしっかりとつかみ、空前の大ヒット作品となり、その後何作かの連作ともなり、日本の独立プロ史に大きな一ページを飾ることとなったのでした。
それ以降、現代ぷろは「平和」と「人権」をテーマに絶えることなく作品を世に送り出し続けて来ました。
1998年、会社設立からその先頭に立って、プロデューサーとして、そして監督として現代ぷろをけん引して来た山田典吾氏が他界後は、その奥様火砂子氏がその後を引き継ぎ、これも見事な製作を続けていらっしゃったのでした。
そんな山田火砂子さんから、シナリオを添えたごていねいなお手紙を頂戴致しました。
長年の企画がやっと実って「母」の製作に着手するので力を貸して欲しい…そんなお言葉が綴られていました。
この作品はキリスト教に根ざした数々のヒューマンな作品を世に送り出して来た三浦綾子さんが、小林多喜二の母をテーマに描いたロングセラーを原作にとったもので、今の時代に「人権」と「民主主義」を高らかに語ろうとするものでした。
又、この映画で多喜二の母役を演じることになったのは、日本映画界の名優寺島しのぶさん、山田さんの思いに全面的に賛同して、東北での配給をお引き受けしたのでした。
人の幸せを願って小説を書き続けた小林多喜二の魂は、その母の無償の愛に支えられて一本の映画に結晶し、明年全国に向けた旅を始めます。